ティアラ2
相手にしないでさっさと帰ろう。そう思って歩き始めると、背後で囁かれた。

「今日はアイライン、いつもより太いね。特に左目」

相変わらずの鋭い観察力。

ピタリと立ち止まると……。

「右はそっちに合わせた感じかな?」

彼はにんまり微笑んで、挑発するような言葉を並べてきた。

……やな男。誰も気がつかない程度の失敗を、一瞬で見破るなんて。

「映画はお嫌いですか?」

チケットをひらひら揺らす。その姿をじっと見つめるあたしは、にこやかに微笑んで「いいえ」と返した。

「大好きですけど、あなたと一緒に観たいとは思わないんです」

柔らかい表情で、愛想を振りまきつつ、きつい言葉をぶつける。

すると、彼も穏やかな口調で「“あなた”じゃないよ」とつぶやいた。
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