ティアラ2
「……帰ろっか」
ドアにへばりつくのをやめて、つぶやく。これ以上、篤紀の楽しそうな声を聞くことなんてできない。

きっと同じ気持ちなのだろう。真剣な表情を浮かべる透吾も、その言葉ですんなりドアから離れた。……そのとき、だ。

「ねぇアッキー、あの返事……そろそろ聞かせてくれないかな?」
笹野京香が意味深なことを言い出した。

歩き出そうとしていたあたしたちは、互いに顔を見合わせ、また中の声を拾う。

「あの返事って?」
「やだ、忘れたの? ……付き合いたいって話」

部屋の中はさっきよりも静かで、物音なんてひとつもせず、ふたりの声だけが響いてる。

「……」
笹野京香の最後の言葉で、グッと胸が痛くなった。
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