ティアラ2
笹野京香は黙っていて、何も言ってはこない。

「変な話なんだけどさ、別れを切り出したのはこっちなのに、いまの俺……ふられた気分なんだ」

夢を見ているような感覚だった。

「なんていうのかな……付き合ってるときよりも別れてからのほうが、アイツのことを好きになってて。なんか……片思いをしてるみたいな気持ちでさ」

夢でもいいや。そう思った瞬間、視界は涙でぼやけ、唇が微かに震えた。

「たしかにあのときは疲れてたよ。……もめるたびにぐったりしてたし、合わないのかもって考えてた。でも、ふってすぐに後悔した……俺がアイツの後を追いかけるの、笹野も見てただろ?」

別れた日のことが頭の中で渦巻く。あのとき……追いかけてくれてたの?

「あの後さ、駅まで行ったんだけど……会えなくて。仕方なく店に戻ろうとしたら、偶然……他の男と会ってるところを見たんだ。……その前にも男の車からおりてくるの、見たことあって。……浮気してたことがどうしても許せなくて、いまもよりは戻してないけど……俺まだ、アイツのこと……。だから笹野とはつき合えない」
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