ティアラ2
「ちょっとは慣れた?」

よそ見をするあたしに、話しかけてくる篤紀。

突然すぎて、なんのことかわからないあたしは「え?」と首を傾げて、彼を見る。

「ここの仕事」

そう言って、彼はドアを開けたまま、あたしが先に入るのを待ってくれていた。

足を進めながら、「なんとか」とテキトーな返事をするあたし。

注意されたことを思い出して、素直に答えることができなかった。なのに、彼は……。

「そっか」

クイッと曲げた口元、優しい話し方。

……久しぶりに見たような気がする、篤紀の笑う顔。

「……」

直子の言葉を振り返っていた。「あんたがいましなくちゃいけないことは」ってやつを。
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