彼女ノ写真
「先輩って、やっぱり、絵描きになるのが夢なんですよね?」



「何よ、唐突に」



「いや、どう思ってるのかな~って気になったもので」



「まぁ、少年から見たら、そうなんでしょうね。私は絵描きを夢見ている、絵描きになりたい美少女なんでしょうね。でも、私からしてみれば、夢なんてないわよ」




所々、突っ込みたい言葉が僕の鼓膜を震わせたのだけど、まーいいさ、とりあえず置いておいて、気になった言葉を早々に片付けてしまおう。




「あの先輩、それって、どういう事ですか?」



「いい?私はね、絵描きなのよ。だから夢なんて、今までにただの一度だって、描いた事なんてないのよ。だって私は、絵描きだもん。誰が何て言おうが、私は私が絵描きだって認めてるんだから、夢なんて描かないのよ」



「はぁ、、、」




まったく分からない。どう言う事だ?先輩がまったく無意味な事を、ダラダラと話す訳がないんだ。と言う事は、意味がある。




それは先輩ならではの、哲学と言うか、生き方と言うか、世間の常識や僕の持つ常識とは、かけ離れているだろう事だけど。




そしてそれは、時々、僕の心に痛いくらいに突き刺さる。




自分は自分を裏切らない───まさにマキ先輩の生き方を表している言葉だと思う。




そんな事を考えながら、少し気を抜いていると、視界の端に、サイオンジ先輩が差し出す紙コップに入ったコーヒーが見えた。




どこまで行って来たのだろう?見慣れたその大手ファーストフード店の紙コップから立ち上る湯気は、香ばしい香りがした。





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