彼女ノ写真
「エークン───」




彼女に名前を呼ばれる事が、こんなにも嬉しいと感じた事はない。こんな状況なのに。そして、ただの愛称なのに。




「エークン、あのね───」




その声は、生気を失っている様に感じた。彼女らしくないその声に、今すぐ声を出さなくちゃいけない気がした。




「エー───」「あのさ、シキちゃん!この場所覚えてる?」




覚えているも何も、恐らく見たであろう、ゲタ箱に詰め込んだ写真にだって残した場所だ。そして、シキちゃんはあの写真を見たから、ここへ来たはずな訳で、さっき見たと言われればそれまでだった。




「覚えてるわよ。あの写真の場所じゃない、、、」




あの写真とは、どっちのあのなんだろう?さっきのあのなのか、文字通りあの写真のあのなのか───バカって言われるのを承知で聞いてみた。





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