スキの魔法
綾華 side




侑麻さんが鋭い視線を投げかけてくる。でも、あんまり見えないし、今は恐くない。





「…お母さんの死んだ事実を聞いて、あたしは何で生まれて来たんだろうって…思いました。生まれなきゃ良かったのにって…。それで、もう生きてる意味なんてないんじゃないか、と思ったんです。だったら、自殺しようと。」





そこまで言って、口を噤む。侑麻さんの表情は、さっきと変わらない。





「…それで、目に入ったビルの屋上に行って。あたしは屋上から下を見ました。人が歩いてて、車も行き交ってて…。下に落ちた自分の姿を、目を閉じて想像したんです。

…酷かった。お父さんの悲しむ顔が浮かんだ。」





グッと唇を噛みしめる。





「だから、気付いたんです。あたしは死んじゃいけないって。今まで大切に育ててきてくれたお父さんに、申し訳ないって思ったんです。それに、これ以上迷惑はかけたくない…。だから、あたしは自殺するのを止めました。」





気付けば涙が零れていた。





「あたしは、お母さんの分まで生きます。侑麻さんに憎まれていても…もう恐くありません。

…あたしは、侑麻さんの事が好きです。お母さんと、お父さんの親友だから。…嫌いなあたしを、この家に置いてくれてありがとうございました。」





そう言って、深く頭を下げた。





「あなた…強くなったわね。私は今も、あなたの事は許せない。…でも、」





顔を上げて、侑麻さんを見つめる。





侑麻さんはあたしの所に来てしゃがみ、そして言った。





「この家に、帰ってきなさい。」





侑麻さん………。





「……ありがとうございます。」





「あくまで!大切な親友2人の娘だから、仕方なく置いてあげるのよ?」





ねぇ…お母さん。





あなたの親友さんは、とても素敵な方です。




< 169 / 365 >

この作品をシェア

pagetop