君には、絶対に…
「こ、これ、ありがとう!マジで助かった!」

すべての試験が終わってすぐ、俺は平成を装いながら、彼女の机の上に、借りていたシャーペンと消しゴムを置いた。

「ううん、困った時はお互い様だよ。」

彼女は笑いながらそう言って、俺が借りていた物を筆箱にしまった。

彼女の顔が直視出来ない…。

彼女ともう少し話してみたいのに、言葉が出てこない…。

こんな自分が不思議で、何で人と話すぐらいのことで、こんなに緊張しているのか分からない。

いつも出来ていることが、何で今出来ないのかが分からない…。

「じゃ…!」

結局、俺はその場から逃げることしか出来なかった。

本当はもう1度彼女の顔を見たかったし、彼女の笑顔も見たかった。

でも、そう思うのに、それすらも出来ずに、俺は家に帰った。

家に帰る途中も、家に帰ってからも、彼女のことが離れない…。

ほんの少しだけど、俺が見た彼女の表情は、今でも鮮明に思い出せる…。

綺麗な白い肌で、綺麗な二重で、少し茶色がかかった大きな瞳、笑った時に出来る笑窪…。

そして、初めて人の瞳から目が離せなくなるような感じ…。

あの瞬間を思い出すだけで、心臓の鼓動が速くなって、顔がすぐに熱くなる…。

自分でもこれが何なのか、なぜこんな風になっているのか分からないままだった…。
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