君には、絶対に…
ラスト1試合、優勝決定戦を前に、右足の震えが治まったのは、事態が良い方向に好転した。

好転したとはいえ、やっぱり不安は不安だった…。

今は収まっているけど、また試合が始まったら、右足が震え出すかも知れない…。

そうなったら、またチームに迷惑をかけてしまう…。

「とりあえず、俺と睦は、次の対戦相手がどこになるか観てくる。洋介は、試合まで休んでて良いぞ。」

色々と考えながら、体育館のロビーまで移動してきた時、将人はそう言って、また体育館の中に戻っていった。

“休んでて良い。”

そう言われても、これはこれで、結構困る…。

1人で時間を潰すのも退屈だから…。

でも、ロビーの前で突っ立っていても仕方がないから、俺は近くにあった自動販売機で飲み物を買って、ソファーに座った。

次の試合で、また右足が震え出した時、必ず3Pを放たなきゃいけない場面になる。

その時、今の試合みたいに、全く入らないんじゃ、もしかしたら、勝てないかも知れない…。

少なからず、相手を信じ込ませるためにも、1本ぐらいは入らないと…。

「はぁ~…。無理だよな~…。練習してない上に、こんな状態じゃ…。」

俺は大きなため息をつきながら、そう呟き、ソファーに寝転がった。

「さすがの洋介君でも、3Pは難しかったかな~?」

ロビーの天井を見つめながら、とにかく色々と考えていると、いきなり俺の視界に長い髪と笑顔の未来先輩が現れてそう言った。

睦と将人のところに行っていると思っていたから、俺のところに来たことにも、いきなり顔を覗き込まれたことにも驚き、気が動転した。

「まぁ、“放て!”って言われて、すぐに入れるなんて無理よね。」

寝転がっている俺の視界から、未来先輩は消えながら、少し真剣で、でも、少し笑って話す声が聞こえた。
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