君には、絶対に…
「洋介先生~!甘え方が上手いですなぁ~!見習わせていただきます!!」

「ば、馬鹿!わざとじゃねぇよ!!」

自分の右足の状態にばかり考えていたから、今井さんに支えられていることも、一瞬忘れかけていた…。

そんなところに、睦の言葉が来て、わざとではないにしても、今の状況に照れずにはいられなかった。

でも、何とか1人で歩き出そうにも、右足にもう力なんて入れられない…。

それどころか、右足を地面につくことさえ、今では出来ない…。

そんな俺を、今井さんは嫌な顔1つ見せずに、その場からゆっくりと歩き出した。

人に支えてもらわないと歩けないなんていう情けない状態に苛立ちもあるけど、俺の心は、他のことで満たされる一方だ。

今井さんに触れているだけで、俺の心臓は高鳴って、緊張して、顔が熱くなる…。

恥ずかしいし、女の子に支えてもらっているという照れくささもあるけど、それ以上に幸せな気持ちで一杯になっていた…。

「すごいよね!通り過ぎる人みんな、伊原君のことを労ったり、心配してるよ!?」

「あはは…。嬉しいような…情けないような…。」

医務室に向かう途中、幾度となく、知らない人に話しかけられた。

それは、年上も年下も関係なく、ほとんどの人が称賛を与えてくれた。

でも、そう言ってもらえる喜びを感じる余裕もない。

ようやくまともに話せるようになった程度の俺には、彼女に触れていることが刺激的すぎで、緊張のゲージが振り切れて、頭の中が真っ白になっていた…。

そんな状況で、俺が感じることと言えば、今井さんからほのかに感じる良い匂いだけで、頭は真っ白だけど、今井さんの匂いを感じて、少し興奮していた…。

医務室に着いてから、アイシング道具を借りて、右足のふくらはぎを冷やしていた。

最初は、冷たすぎると思ったアイシングも、しばらく付けていると、徐々にちょうど良く感じられて、痛みが少しずつだけど、引いていくのを感じていた。

そんな俺の前で、今井さんは興奮しながら、俺のプレーについて、身振り手振りマネしながら話していた。

こんなに興奮して話してくれるとは思っていなかったし、喜んでくれているとも思っていなかったから、俺も見ているだけで嬉しかったけど、やっぱり少し恥ずかしかった。
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