君には、絶対に…
「信じられないよ!自分の身近にいる人が、あんなにすごいことをしたんだもん!今日来て本当に良かった~!!」

彼女の話と笑顔が、優勝を実感させて、痛みや疲れを和らげてくれる。

彼女が笑っているだけで、本当に幸せに感じる。

今過ごしているこの何気ない時間が、俺にとっては、すごく貴重な時間に感じていた。

「今日の伊原君見て、伊原君がモテる理由が分かって、何か納得しちゃったな。」

「は?え?俺、モテないよ?」

ほんの寸前まで、バスケの話をしていたのに、いきなり話の趣旨が変わって、俺は少し焦りながらそう言った。

自分がモテると感じたことなんて、この短い人生の中で、1度だってない。

女友達だって多いわけでもないし、告白されたことだってないんだから。

「伊原君は知らないだけよ。クラスの女子の間じゃ、すごく人気者なんだよ?これじゃ、すぐに彼女出来ちゃうね!好きな人とかいないの?」

“好きな人とかいないの?”

今井さんにそう言われただけで、少し落ち着いてきていた心臓の鼓動がまた速くなった。

今、告白する場面か!?い、いや…。

「それより、今井さんはどうなの?好きな人いないの?」

思ってもいないことを言われたせいで、俺は話を流して、逆に今井さんに聞き返していた…。

告白するのには、良い流れだったのに、俺には“好きだ”と言う度胸もなかった…。

「私の好きな人はね…モテるし、ダメだよ、きっと…。」

勢い余って聞いてしまったことだけど、本当に聞くんじゃなかったとすぐに思った…。

好きな人がいても、不思議なことじゃないけど、好きな人がいるとも思っていなかったから、好きな人がいるということだけで、ものすごくショックだった…。

でも、希望がないわけじゃないとも、すぐに思った。

誰かは分からないし、もしかしたら、俺かも知れないっていう、自意識過剰的な気持ちがないわけじゃなかったから。
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