君には、絶対に…
何か言おうにも、今井さんにかける言葉が見つからない…。

だから、俺は何も言えずに床を見つめていた…。

そんな時、医務室のドアが開いた。

医務室の外から、満面の笑みを浮かべた睦が、テンションの高く話す。

「お~お~!仲良さ気に何話してんの~?つーか、俺、邪魔だったかな~?」

「ん?あ~…―――」

「今ね、好きな人の話をしてたの。私は松本君のことが好きだって言ったのに、伊原君は何も言ってくれないんだよ?」

え!?何言ってんの!?

今井さんが笑顔で、笑いながら言った言葉を聞いて、俺は驚きを隠せなかった。

ほんの数分前に、諦めようとしていたはずの人間が、いきなり告白をしているんだから、驚かないわけがなかった。

「あ、悪ぃ!俺、今井に興味ないんだわ。」

睦は驚く様子など一切なく、今井さんに笑って答えた…。

興味ないのかも知れないし、俺に気を遣っているのかも知れないけど、告白されたのに、そんな言い方…。

「え~!残念!あ、やばっ!もう7時過ぎてる!ごめん!こんなに遅くなると思ってなかったから、先に帰るね!」

「おう、今日はありがとうな!また明日!」

今井さんは、全く気にしていない表情と言葉を笑って並べ、睦の言葉をろくに聞かないまま、医務室から飛び出して行った。

走り去ろうとする今井さんの表情が、ほんの少しだけ見えた…。

今井さんの横顔はものすごくシリアスで、すごく辛そうで、大きな瞳に大粒の涙を溜めていた…。

閉会式の最中も、俺の頭からは今井さんの表情が離れない…。

女の子があんなに辛い表情をしているのも、今にも零れ落ちてしまいそうな大粒の涙を見たのも、俺は初めてだった…。

これが…すべての始まりだった…。
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