元気あげます!
「昔、父さんが千裕を褒めるたび、母さんが泣いていた。
泣く回数を重ねると、何か思いつめた顔になってしまったんだ。
僕はそんな顔の母さんが嫌だった。

僕の母さんは君と同じで笑顔をたくさん持ってる人だった。
千裕が来るまでは、いつも笑顔で僕と遊んでくれたし、おやつも作ってくれた。

政略結婚から始まった家庭なのかもしれないけれど、それなりに楽しめる家庭を作ろうとがんばってきたんだ。
なのに・・・どんどん母さんは別人みたいになっていった。

でもね、僕が相談事をしに行くと、少し笑ってくれるんだよね。
相談の内容がどんなことであろうと、うれしそうにしてくれる。」



「裕文様・・・」


「あ、朝から話す話題じゃないね。ますますマザコンだと思われる・・・」


「マザコンなんて思わないですよ。
裕文様も千裕様と優しいところは負けていません。
どちらもお母様に笑ってほしいと思って生きてきたわけですから。」


「千裕も母親に笑ってほしいと?」


「はい。孤児院の先生だった千裕様のお母さんは貧しい施設をつぶさないようにするためにとても御苦労されたとききました。
資金繰りがどうにもならなくなって、お体も悪くなられた千裕様のお母さんは裕文様のお父様にご相談されたんです。

千裕様を三崎の家に入ることを条件に施設の支援とお母さんの療養を手助けされたそうなんですけど、お母様はもうそのときは・・・。

千裕様はお母さんの意思を継いで、身寄りのない子どもたちのその後を支え続けて、天国にいるお母さんが笑ってくれるようにって・・・ここまでがんばってきたんです。」



「千裕がひかるにそう説明したのか?」


「いえ、千裕様からきいた話は少しだけなんです。
千裕様がいきさつをすべて話したことがあるのは、裕樹様だけだそうで、私は裕樹様から最近、細かく教えてもらって・・・。

私は一時預かりだったけれど、その施設にいたんです。」



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