元気あげます!
「おやぁ?隆裕はどのくらいみんなの事情を知っているのかどうか知りませんけど、母である私はそんな人の心も持たない息子に育てたつもりなんかないのにねぇ。」
「何を言ってるんですか?母さんこそ、フランスから帰国して間もないのに黙っていてください。」
琴美はにやりと隆裕をにらみつけると、話を続けました。
「あんたたちがいじめてるひかるちゃんはね、千裕を三崎の子にする時に私もとてもお世話になった人の娘さんなのよ。
簡単にいうとね、私の命の恩人の娘さん。」
「命の恩人?」
「あんたがあの施設まで行くのが沙代子さんの手前、気まずいからって私が代わりに行ってあげたわよねぇ。
あの日、天候が悪くて、施設がすぐに見つからず、小さな水路に私は落ちてしまったの。
そして、ドロドロのびしょびしょで立ち往生していたのを救ってくれて、着替えも、お風呂も道案内も・・・我が子を迎えにいくのが遅れてまで私の世話をしてくださったのが、ひかるさんのお母さんの光子さんだった。
なかなかできることじゃないわ。どこの誰ともわからない女ひとりにねぇ。
偶然、少し前に私もひかるさんに会えて、昔話からいろいろ話したけれど、ひかるさんは光子さんの娘さんだけあって、まだ若いのに、気遣うことも、思いやることも知っているとてもいいお嬢さんよ。
自分の我がままや体裁をかまって、罪のない親子を引き裂いたり、追い詰めたりした人や浮気されたフリをして、こっそり恋人と逢引きしていた人とは違うのよ。」
「なっ・・・」
「おばあさま・・・あっ、琴美さん、浮気されたフリしてこっそり恋人とって・・・それは母さんのことですか?」
今度は裕文が琴美に強く、聞き返してきました。
「母さんは父さんが千裕の母親とかかわるたびに泣かされてきました。
僕は、千裕がやってきて、3か月ほどしたあの日を忘れてはいません!
一晩中、僕の母は泣き崩れたままだった。あれは!!」
「裕文も大人になったようだから、真実を言ってもいいわよね。沙代子さん。」
沙代子は青ざめた顔をしたままうつむいてしまいました。