元気あげます!
ひかるは衣類の荷造りを一通り終えると、お茶をいれて千裕に差し出しました。
「こんなありきたりな日常を千裕様と過ごしているのだって、私にとっては奇跡みたいなことなんですもの。
子どもの頃に千裕様との接点がもしもなかったら・・・って考えると、絶対ありえっこない光景なわけでしょう?
それが、高校に通わせてもらって、留学までさせてもらって・・・そして。」
「なんで最後だけ言わない?
そういえば・・・返事もらってないな。
千裕様のお嫁さんになるって言ってみ。」
「なんかやだ。」
「おぉ!?ここまできて話を覆そうってするか?
それとも・・・俺が嫌われるようなことやってしまったのかな。」
千裕の表情が、さっきまでのひかるを心配そうに見る表情にも増して、悲しげな表情になったので、ひかるは慌てました。
「あ、そんな顔しないで。ちょっと言ってみただけ。・・・でもないか・・・。
私も不安なの。
あっちで勉強して、ほんとに夢がかなうのかどうか。
挫折して帰ってきちゃうんじゃないかとか。
もしうまくいかなかったら、千裕様に合わせる顔なんてないし。
ダメだったからお嫁さんにしてくださいなんて言えるわけない!」
「ま、なんとかなるって。
外に出よう。今日は車じゃなくて、歩きでさ。」
「えっ、いつも町を歩くのは嫌がってたのに。」
「当たり前だ。教え子とデートしてたら問題だろ。
今日は特別・・・。
実質、学校で会う日も卒業式くらいだしな。
担任やってなくてよかったよ。
卒業証書授与でおまえの名前を呼んだりした日にゃ、泣いてしまうかもしれないし。」
「私、そんな苦労かけてないのにぃ・・・。
あ、そうでもないか。
学校では接点がなかったけど、いつも補習してもらってたもんね。
なんかさびしくなっちゃう、千裕先生のカッコがいちばん好きなんだもん。
私服の千裕様はカッコよすぎで、歩いてると女の人は必ず振り返って見るんだもん。」
「否定はしないけど、外歩くのに白衣とサンダル履きってわけにはいかないだろ。
そうだな、少しだけ譲ってコンタクトはやめとくか。」