元気あげます!
ひかるは少し驚きました。

返事をした男性の声が千裕に似ていると思ったからなのですが、あらためてその男性の顔を見てみると、千裕に比べて、のんびりしたおじさんっぽい印象でした。


上着を手渡ししてお礼をいうと、その男性はちょっと冷たい印象になって、


「家出なのかな。帰るところはないの?そのかっこうで、繁華街とか行くと、すぐに補導されるよ。今週はそういうコを取り締まろうって警察官もはりきってるから。」


ひかるは、びくっとしてからすぐに反転して走りだしました。

しかし、5mほども進まないうちに男性に腕をつかまれて、しゃがみこみました。



「逃げないで、僕は警察官じゃない。捕まえて取り調べなんてしないよ。
市の職員だから情報を知ってただけ。
聞かれて嫌なら答えなくていいから、どうして家出したのか?話せるところだけでいいから話してみなよ。

隣の人が何やってるかもわかんない時代だからさ~、どうしてもしんどいことを自分で抱えてしまいがちなんだろうけども、僕みたいなぜんぜん知らない第三者にベラベラ嫌なことを話したら、これから先が見えてきたり、元気になると思うんだ。」



ひかるはそこまで言われて、心が揺れました。
相手は公務員だし、妙に説得力のある言葉をいうし、それに、この男性の声が俺様モードじゃない千裕の声に聞こえて差しさわりのない程度に話をしてもいいかなぁ・・・という気持ちにさせました。


父親が自分を売り渡すようにお金持ちの家へ自分を放り込んだこと。
お金持ちの家でメイド見習いをして暮らしていたこと。
お金持ちの家の主が学校へ通わせてくれたり、いろいろ学ばせてくれたこと。
じつはその主が、子どもの頃に自分が親切でしたことに感謝して、その恩返しをしたいと言ったこと。
ひかるが主をだんだん好きになって、主もそういう素振りをしてきたけれど、あまりに住む世界が違いすぎる相手に、お互いに相手を傷つけてしまうとわかってしまった。


話しているうちに、名前だけ伏せられている程度で、じつは事細かにひかるはきいてくれた男性に話してしまっていました。


< 52 / 143 >

この作品をシェア

pagetop