ルージュの森の魔女
第1章 出会い
――季節は晩秋に入り、広葉樹の枯れ葉も残り僅かとなった頃、アルフェリア大陸の東にある小さな街、ロゼは今日も活気に溢れていた。
大陸の中央に位置する帝都ほどではないが、道に建ち並ぶ露店には食べ物や工芸品、他の国々から取り寄せた輸入品など様々な物が売られており、商売人の威勢のいい掛け声と共に行き交う人々の笑い声が街全体に響き渡る。
そんな中、紺色のフード付きマントを羽織り、藤で編んだ手提げかごを持った女性が、人混みを縫うように歩いていた。 その女性の隣には金眼の黒猫がぴったりと寄り添うようについて歩いている。
一人と一匹は脇目もふらずにただ真っ直ぐ前を見つめ進んでいた。
『今日は多目に作ってきたつもりだったけど、あっというまに売れたわね』
フードを被った女性――否まだあどけなさの残る少女は紫眼の瞳を足元の黒猫に向け、語りかけた。
黒猫は首を上げ、隣を歩く主人を見上げると答える。
『またあの面倒臭い薬を作るのか?アリーナ…』
呆れたように金眼の瞳を細め、黒猫は溜め息ついた。
端から見れば、少女が猫に語りかけ猫がそれに人語で答えるなど、あり得ない光景だが、街を行き交う人々は何事も無かったようにその者たちの傍を通っている。
――否、聞こえないのだ。
なぜなら、少女と猫は誰にも聞こえないようにテレパシーによる心の会話をしていたのだから……
ようは、この少女は魔術の心得があり、猫は術者の使い魔であることを表していた。
アリーナは使い魔の飽きれた様子に軽く微笑んだ。