リアル
スコットランド産の特別な酒だ。座ったと同時にママが酒の用意を始め、私が聞き返す。一種の儀式だ。私が依頼を受けるか如何か。受ける場合は聞き返し、受けない場合は酒の銘柄を聞き返さない。ITの発展した時代に、随分とアナログな手段を取るが、私の仕事の性質を考えると、時代に逆行した方が安全だと云うのが私の結論だ。
「概要を説明するわよ」
 ママが髪の毛を掻き揚げ乍、私の前に酒を置き話し出そうとすると、扉に取り付けられた鈴が乾いた音を響かせる。
「よう」
 見慣れた上に余り付き合いたく無い男である富田重明が入って来る。
「相変らずシケた店だ」
 富田は、銀髪の胡麻塩頭を撫で回し乍私の横のスツールに腰を下ろして毒付く。
「ビールだ」
 鷹揚な態度の富田に、ママはうんざりとした表情を浮かべてビールを出す。
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