本当に愛おしい君の唇
“腹減ったな”


 素直にそう思えるぐらい、治登は空腹感を覚えていた。


 これからラウンジでモーニングを食べる気でいる。


 四月の終わりからゴールデンウイークが始まり、それを挟んでまた仕事が忙しい五月がやってくるのだ。


 治登はまた専務室で書類に目を通す仕事が続く。


 淡々としているがこれが会社役員の日常だ。


 エレベーターで一階まで降りて、ホテルマンにカードキーを返すと、治登たちはラウンジへと入っていった。


 中には朝らしく、静かな感じのクラシック音楽が掛かっている。


 苛立(いらだ)ちがちな気持ちがスゥーと落ち着く。


 治登がテーブルに陣取って、直美に、


「モーニングでいいよな?」


 と訊いてみた。
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