本当に愛おしい君の唇
 帰宅すれば有希の顔を見ざるを得ないのだ。


 おそらく自分が不在の間は直仁と過ごしていて、帰ってくれば何気ない風に振舞うだろう。
 

 だが、致し方ない。


 治登は確かに心を痛めていた。


 自分の妻が若い男に寝取られるなど、考えたくもないことだからである。


 実際そういった事実に直面したとき、治登は離婚という選択肢を選ぶしかなかった。


 すでに新宿区役所に頼んで、離婚届を自宅にファックスしてもらっている。


 後はそれに必要事項を記入して、署名捺印までさせてから、持っていくつもりでいた。


 これしか選ぶ道がないというのは、実にきつい。


 ただ、もし仮に離婚となれば、治登は新しいパートナーとして迷わず直美を選ぶ。


 そして同時に妹の令香から甥っ子をもらってきて、養子にし、将来的にはルーデルの跡継ぎにするつもりでいた。


 手筈は整っている。
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