本当に愛おしい君の唇
 治登は会社まで歩きながら、ふっと空を見上げた。


 中空には雲が一つもなく、一足早い夏空が広がっている。


 出勤時間には十分間に合った。


 社のあるビルのフロアを突き抜けて七階まで行き、専務室に入っていく。


 テーブルには秘書の今井彩香が淹れてくれたと思われるコーヒーが置いてあり、治登は椅子に座り早々、カップに口を付けた。


 苦さを感じ取りながら、山積みになっている書類を見る。


 あっという間に温かい春が過ぎ去って、暑い夏がやってくるのだ。


 治登は羽織っていたスーツの上着を脱ぎ、長袖のワイシャツ姿で仕事し始めた。
 

 朝から書類に目を通すのに忙しい。


 だが専務である治登の、この淡々とした努力があってこそ、今のルーデルがあるのだ。


 元々コツコツと積み上げていくタイプの企業人である治登はこういった作業に時間を惜しまない。


 返って自分が陣頭指揮を執っているから、大多は社長でいられるのだし、常務である樺
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