本当に愛おしい君の唇
 それに治登も疲れを覚え始めていた。


 毎日定時に出勤して、山積みの書類に目を通すのだが、この作業自体がしんどくなってきている。


 その分、直美との仲は深まるのだった。


 ケータイのアドレスにメールすることもあったのだし、電話で話すこともある。


 要はケースバイケースというやつだ。


 治登は同時に、金兼原建設の動向が心配になっていた。


 義弟の和弘には、どうやら熊川コンストラクションの株を大量に買い占めて、いずれ敵対的買収を仕掛けることまで視野にあるようだったからだ。


 夫の半ば蛮行(ばんこう)と呼べる行為を令香は知っているのだろうか……?


 多分知らないと思う。


 普段から家庭の奥様で通っている人間なのだし。


 治登は和弘と今度会ったとき、言おうと思っていた。


「君は一体何考えてるんだ?」と。
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