本当に愛おしい君の唇
 今、建設業界を襲うこの未曾有の不況下で、M&Aを行うのは極めて危険だからだ。


 それに治登自身、直美をもっと近付けたいと思っていた。


 普段から互いに休みの日だけは一緒にいる仲なのだが……。


 ほんのちょっと前に、ホテルの部屋で交わした口付けを忘れられずにいたのだし……。


 治登はウエイターにランチを頼み、料理がテーブルに届くまで、タバコを取り出し吸い続けていた。


 愛吸(あいきゅう)するピースはマイルドな味がしている。


 治登はタバコが燃えて、吸える部分が短くなると、灰皿に灰を落とした。


 揉み消して、フゥーと息をつく。


 店内は混んでいてざわついていたのだが、治登は普段から慌しい会社組織にいるので、この程度のざわつきなら気にならない。


 やがてランチが届く。


 治登はメインとなる、綺麗にカットされた豚肉と魚介類に季節の野菜がふんだんに炊き合わせられたピラフを食べた。
< 134 / 171 >

この作品をシェア

pagetop