本当に愛おしい君の唇
 部下が封殺(ふうさつ)された状態で何も言えないので、皆、社のトップが右を向けと言えば右を向かざるを得ないのだ。


 そんな会社が発展するはずはない。


 治登はルーデルがそうならないよう、しっかりと改革していくつもりでいた。


 時代に逆行してはいけない――、それは肝に銘じている。


 治登は店の出入り口にあるレジで食事代を清算し終えると、社に向け歩き始めた。


 確かに連日、仕事が続いていて疲れてはいる。


 合間に漱石や鴎外などの明治文学は読み続けていたのだが、あまり頭に入らなかった。


 だが、ここで仕事を投げ出すわけにはいかない。


 幸い直美は旦那の洋介と別れれば、民法による半年間の規定された期間を経て、治登と一緒になるつもりでいた。


 今年七歳になる娘と、同じく五歳の息子という子供二人の親権は自分が持つ気でいて。


 それに治登には妹の令香の長男をもらい受ける気がある。


 やはり会社自体の図体は大きくなっても、血が繋がった人間を社に一人ぐらい入れてお
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