本当に愛おしい君の唇
かないと、心配で堪らないのだ。


 それは治登の率直な気持ちなのだった。


 甥っ子は出来がいいらしい。


 順調に進めば、エリートになるだろう。


 まあ、挫折を知らないエリートも困るのだが……。


 人生で一度や二度ぐらいのつまずきは必要なのである。


 それはほとんど順調に来ていた治登ですら分かっていた。


 自分の場合は大学在学中に起こしたベンチャー企業が、今のルーデルなので。


 二十歳のとき作って、少人数で運営し始めた会社には思い入れがある。


 言いようのないほど深く、重たい思いが。


 治登はそれを考えると、自分が仮に第一線から退いたときでも、信用の置ける人間を中枢に据えておく必要があると感じていた。


 いずれ直美と一緒になるにしても、まだ時間がある。

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