本当に愛おしい君の唇
 治登が店出入り口のドアノブに手を掛け、ゆっくりと店内に入っていく。


 カランカランという、ノブに付いていた鈴の音が鳴る。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると、女性の声が聞こえてきた。


 実はバルベールは高級料理店で、一応予約制だ。


 だが、ここの店長は治登が飛び込みで来ることも知っている。


 ずいぶん昔から顔馴染みなのだ。


 つい最近、口の周りに髭を蓄(たくわ)え始めていて、老成したようになっている。


「ああ、いらっしゃい」


 厨房の方から店長の声が聞こえ、治登が、


「マスター、世話になるよ」


 と鷹揚(おうよう)に言った。


「小林さんも調子がいいな。一応予約ぐらい入れてよ。電話で」
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