本当に愛おしい君の唇
「別にいいじゃん。こんな夜に俺が来ることぐらい了解済みだろ?」


「うん、まあね。私だって、この店始めて十年以上になるから」


「もうそんなになるの?」


「ええ。以前も言ったでしょ?私、脱サラしてフランスに料理の修行に行ってから、ここ開店したんですよ」


「ああ、そうだったな。あんたも苦労人だからね」


 治登がそう言って、奥の喫煙席に座る。


 タバコを吸うからだ。


 治登はヘビースモーカーだった。


 かなりの本数、吸っている。


 喫煙がせめてもの楽しみなのだった。


 直美は吸わないようだったが、普段からOLとして働いている以上、同僚が職場で吸うので慣れているようだ。


 メニューを見ると、肉料理のフルコースが一人分で五千円切れるぐらいだった。
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