本当に愛おしい君の唇
 そして直美の方を向き、笑顔を見せた。


 彼女が笑っている。


 幸せな気持ちに変わりはないのだ。


 誰にも邪魔されることのない、とても大きな幸せが。


 だが、そんな治登にあることが襲い掛かる。


 どうやら古賀原が都内に来ているのというのだ。


 しかも鋭利なナイフを隠し持って。


 おそらく北海道に飛ばす人事を発表した本社の人物、とりわけ治登を恨んでいるものと思われた。
 

 さすがに治登は萎縮(いしゅく)する。


 人間の逆恨みは怖いものだと思っていて……。


 それにおそらく相手が凶器を持っているとなれば、尋常な神経じゃないのだろう。


 治登はそれを本社の人間から聞いて知った。

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