本当に愛おしい君の唇
 狂気に苛(さいな)まれた人間に、仏心などまるでない。


 ただ、獲物を追う獣のように恐ろしいのだ。


 そして治登は気を付けるつもりでいた。


 古賀原は変な新興宗教に嵌まり、教祖にマインドコントロールされているのだから、何を仕出かすのか分からない。


 身辺には十分注意し、下手に動かないつもりだった。


 危険が迫っているのだし、せっかく有希と別れることが出来て、直美との新生活が始まるのだから……。


 治登は直美の唇に自分のそれをそっと重ね合わせる。


 本当に愛おしい気持ちが湧いて出てきた。


 口唇(こうしん)同士が重なっていくたびに……。

 
< 154 / 171 >

この作品をシェア

pagetop