本当に愛おしい君の唇
「ああ」


 治登が頷き、部屋着のまま、バスルームへと向かう。


 互いにもうすぐ独身となる。


 すでに双方とも離婚届を出していたからだ。


 治登も直美もすでに新しい生活への準備をし始めた。


 これが実際一番満たされることだと思いながら……。


 そして治登は外にただならぬ人の気配を感じていた。


 下手すると、古賀原が待ち構えているのもしれない。


 刃物を持って、だ。


 一度恨みを持った人間が、殺人鬼と化すことも無きにしも非ずだったからだ。


 治登は十分気を付けるつもりでいた。


 尾行などされていると感じれば、警察か興信所にでも頼むつもりでいて。



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