本当に愛おしい君の唇
 とても愛おしい類のものだった。


 治登は抱き合いながらキスを繰り返し、込み上げる愛情を確かめていた。


 確かに口唇にはその感覚が未だ残っている。


 執拗なまでに。


 治登と直美は途中で別れた。


 ホテルを出て四百メートルほど行った場所で、別れ別れになる。


「じゃあまたな」


「またね」


 そう言い交し合い、通りを各々の方向へと歩いていく。


 そう、別れてから十五分ほど会社の近辺の通りを歩いていても、やはり不気味な感覚を覚え続けていた。


“誰かいる”


 ふっと振り向くと、五十メートルないぐらいの場所に全身黒ずくめの中年男性が一人立っている。
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