本当に愛おしい君の唇
 男がニヤリと笑うと、歯茎がむき出しになった。


“アイツは……古賀原だ”


 そう思った瞬間、男がこっちに向かってくる。


 通りが混雑しているので、誰も気付かない。


 治登は冷や汗が出て、思わず逃げようとしたが、男はこちらに向かって猛スピードで突っ走ってきた。


 ほんの数分のうちに男は治登に追いつき、急所に刃物を突き立てる。


 ドバッと血が溢れ返った。


 さすがに通りで人が刺されたとあって、それまでは通りすがりだった人たちが皆、立ち止まる。


「うっ……、き、貴様……」


 治登は呻(うめ)くのだが、もうその男は通りにいない。


 凄いスピードで歌舞伎町のある北新宿方向へと逃走した。


 まるでトマトジュースをぶちまけたように血が出ている。
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