本当に愛おしい君の唇
 喪主は離婚届を出した有希ではなく、直美が務めた。


 さすがにルーデルの人間たちも、故人の妹である令香も不可思議に思う。


 体を重ね合う関係だった愛人が葬儀の責任者となったのだから……。


 そして別れのときが来た。


 出棺の時間になり、霊柩車が斎場に横付けされ、治登の遺体が載せられる。


 車は都内でも極めて閑静な場所にある火葬場へと向かう。


 直美は泣き濡れていた。


「ごめんね」という言葉を頻りに繰り返しながら……。


 確かに無念だっただろう。


 十年先、二十年先の栄華(えいが)を誇る明るいルーデルの未来像を見られずに死んだのだから……。


 ちなみに歌舞伎町で逮捕されたのは、紛れもなく元々ルーデル本社にいた古賀原だった。


「とにかく人事に関係した専務を無性に殺してやりたかった」と自供している。

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