本当に愛おしい君の唇
 いくらプライベートな食事でも、会計の際にレシートをもらえば、後は会社の経費で落ちるのだから……。


 そこら辺りにいるごまんといるクソガキじゃないんだから、それぐらいの常識は心得ているのだ。


 治登の経営している株式会社ルーデルは、どちらかと言えば新興企業なのだったが、業界ではかなり名のある会社だった。


 治登は都内にキャンパスのある有名私大在学中に、仲間たちと今の事業を立ち上げることに成功していた。


 当時の仲間たちは暖簾(のれん)わけのようにして、ルーデルから離れていき、結果として治登がそこの社の取締役社長に収まったのだ。


 考えてみれば、二十歳のときに起業したのだから、もうかれこれ二十年以上前になる。


 当時、新宿区内の家賃の安いオフィスで、旧型のパソコンを並べて仕事していた。


 治登は今でも思い出す。


「ああ、俺にもあんな過去があったんだな」と。


 目の前には焼かれた豚肉が置いてあり、

< 21 / 171 >

この作品をシェア

pagetop