本当に愛おしい君の唇
 普段からルーデルの専務室で、治登は仕事をしている。


 目を通さないといけない資料は山ほどあったし、作るべき書類もいっぱいある。


 午前九時始業で、午後五時半、遅くとも六時過ぎには帰れる。


 ただ、治登は自宅に例の有希の不倫相手である直仁(なおひと)が来ている可能性が高かった。


 仮にぶち当たったとして、直仁は自分に対し何かするだろうか、不安で不安でしょうがない。


 だから、自然と家に帰る足も遠のく。


 治登は最長で一週間家を空けたことがあった。


 もちろんその間、ホテル泊まりである。


 ホテル代もバカにならないのだが、治登は泊まっているときは、決まって直美を呼んだ。


 彼女が仕事帰りである時間帯を見計らって、ケータイに連絡するのだ。


 大抵、直美は駅のコンコースなどじゃない限り、出てくれた。


 そして治登がホテル名と住所を告げると、来てくれるのだ。

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