本当に愛おしい君の唇
 さすがに一人でいるのは寂しい。


 いつも大勢の人間に囲まれているから、尚更だ。


 治登は直美のことを予めホテルのフロントにいるホテルマンに報(しら)せていた。


 部屋の出入り口で物音がすると、彼女だと分かる。


 分かってはいるものの、一応扉越しに声を掛けてみた。


「誰?」と。


「あたし。直美」と聞こえれば、パートナーが部屋の前に立っていることを意味する。


 治登と直美は大概、一緒の部屋にいると、互いの服を脱がし合い、セックスに勤(いそ)しむのだ。


 野獣のような本能に任せて始めるのだが、理性が利く高度に知的な動物である人間である以上、後々無茶なことはしない。


 言わずもがなで、治登も彼女も大人だったのだから……。
 

 そこら辺りにいる、幼稚で砂利みたいなレベルの学生などとは違って、治登も直美もちゃんとした大人だったのだし……。

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