本当に愛おしい君の唇
「大丈夫?眠たくない?」


 と直美が問う。


 さすがに寝汗を掻いていたから、眠れていないと思ったのだろう。


 だが、治登はどんなに夜遅く寝ても、朝は万全なのである。


 確かに少し不眠気味なところはあるし、それは否めない。


 治登は仕事の合間を縫って、新宿にある心療内科に通院していた。


 メンタルヘルスが悪いので、専門の精神科医に相談していたのだ。


 ドクターは男性で、治登より一回り以上若く、まだ三十代ぐらいだった。


「お加減はどうですか?」


「ええ、まあ……」


 治登は会ったときはいつも言葉を濁しながら挨拶し、診察してもらっている。


「小林さんもだいぶ笑顔が出てきましたね」


「そうですか?」
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