本当に愛おしい君の唇
 治登は人事で古賀原を処分することを考えていた。


 本来なら、社長職の大多が人事を取り仕切るのが普通である。


 だが、大多はここぞと言うときに押しが足りない。


 普通、大会社の社長なら、それ相当の実力を持っているのだから、無能な課長の首を切ることぐらい考え付くだろう。


 大多の弱いところは専務の治登が補佐するしかなかった。


 昔、起業当初から、治登は大多と一緒に会社を経営してきたのだし、路線に基本的な修正はない。


 かつての部下たちは今、東京都はおろか、大阪や名古屋などの首都圏でバリバリ働いている。


 しかも皆、集まれば互いの野望が渦(うず)めくような雰囲気が出来るのだ。


 俺たちはまだまだ先に進めるといった願望があって、実際その通りになっている。


 治登の子飼いで、起業したときはヒラで働いてくれていた大園は、今大阪の通天閣が見える場所でビルの広いフロアを一つ借り切って、少人数だがIT企業を経営していた。


 宴席に来るたびに、大園が、
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