本当に愛おしい君の唇
「お陰様で儲けてますぅ」


 と、関西弁で言う。


「ああ。君もだいぶ出世したようだね。確かこの間の日本企業新聞に顔写真が出てたよ。『IT企業の風雲児、浪速に現る』って派手な謳(うた)い文句が添えられてね」


「ええ。ルーデルにいた頃が懐かしいでんなー」


「また戻ってくるか?」


 治登は冗談交じりでそんなことを言っていた。


 実はこの間、治登は東京出張してきていた大園を都内のバーに呼んで、話をしていた。


 例の人事の件で、正直なところ頭を悩ませていると。


 加えて、大多のここぞと言うときの決断力のなさに、失望しているとも言った。


 大園が席上でそれを聞きながら、


「専務、それ大事な問題ですがな」


 と言い、次の瞬間思わず意中を漏らす。

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