本当に愛おしい君の唇
 治登自身、今の状況に拘(こだわ)ってもどうしようもないのが分かっている。


 確かに自宅に帰れば二人しかいないのだし、元々は恋愛結婚で結ばれているのだから、そこら辺りのことは心得ていた。


 ただ、腐れ縁とも言わざるを得ない。


 治登にとって、今直美がいてくれる以上、不足はないのだった。


 そしてその日も会社に出勤する際に思う。


「これからは二人三脚だ」と。


 直美との新たな人生に活路を見出しつつあった。


 これが治登の今の実情なのである。


 有希が直仁との関係を清算しない以上、歩み寄りは難しいと考えられた。


 それに有希は自分よりも格段に若い直仁との方がいいと思っているようだ。


 別に、もう一言も口を利くつもりはなかったのだが……。


 問題は古賀原のことに移る。

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