本当に愛おしい君の唇
 人事の件で、大多に諫言(かんげん)しないといけない。


「あの男をこれ以上社に置いておくと、社員たちの士気に関わる」と。


 体よくどこか支社などに追いやればいいのだった。


 まあ、そうは言っても、ルーデルは日本に七つしか支社がない。


 一応北の端は北海道、南は福岡までだった。


 治登は大園の言葉通り、古賀原を島流しにすることを決意しつつある。


 僻地(へきち)である北海道辺りまで飛ばせば、反省するかなと思い……。


 いつも通り新宿に出て、社が入っているビルへと向かった。


 フロアに入ると、真正面に<F7 ルーデル> とある。


 七階にルーデルの本社があった。


 治登は金兼原建設に嫁に行き、旦那の和弘との間に三人子供を作った妹の令香を想う。


 十歳の長男に、五歳の長女が一人と三歳の次女が一人いて、家庭はとても賑やかだ。


 治登と有希が住むマンションとは実に大違いなのである。
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