本当に愛おしい君の唇
 治登はエレベーターで昇りながら思った。


「いつまで仮面夫婦演じられるだろうな」と。


 乗り込んだボックスはさすがにオフィス街のそれとあってか、綺麗に掃除がなされている。


 治登が七のボタンを押してからものの数十秒で、オフィスに到着した。


「おはよう」


「おはようございます、専務」


 秘書課長の今井彩香(さやか)が近付いてきた。


 この子はもう数年社にいる。


 二十代も後半を迎えて、ちょうど年頃なのに未だに結婚願望はないらしい。


 治登はいつもこの女性からコーヒーを淹れてもらっている。


「今日はどれぐらい資料があるんだ?」


「そうですね。……A4サイズの用紙で百枚ぐらいかと」

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