本当に愛おしい君の唇
第12章
     12
 専務室へ入っていくと、彩香が淹れてくれたものと思われるコーヒーが一杯、デスクに置いてあった。


 治登は口を付けてみる。


 アメリカンで淹れてあって、美味しかった。


 治登は基本的にコーヒーに砂糖やミルクなどは一切入れない。


 ホントなら朝の起爆剤で、エスプレッソで淹れてもらっても構わなかったのだが、彩香はその辺りは勘案(かんあん)していて、あえて薄めにしているようだ。


 一日が始まった。


 山積みされていた書類を片っ端から読んで、会議などでも十分通りそうな企画書の末尾に判子を押す。


 その繰り返しなのだった。


 治登は一定時間集中すると、疲れを覚える。


 確かに四十代後半の男性だから、本来ならバリバリなのだ。


 だが、心療内科に掛かっているぐらいなので、メンタル面では相当きつい。
< 61 / 171 >

この作品をシェア

pagetop