本当に愛おしい君の唇
 大抵、下の人間たちは面白い企画書を提示してくることが多い。


 治登もその辺りのことは十分分かっていた。


 どんな突飛なことを書いてある書類でも必ず目を通す。


 そして可か不可かを判定するのだ。


 さすがにルーデルは大手商社なので、下から上に送られてくる企画書は山ほどあった。


 それをどう処理するかが、治登の仕事なのだ。


 字を追い続けていると、目が疲れる。


 朝、必ずブルーベリーのサプリメントを飲むのだが、眼精疲労(がんせいひろう)はなかなか収まらない。


 逆に年齢を経ていくごとに、疲れが溜まりつつあった。


 治登はあまりにも疲れているときは、いったん作業を止めて、椅子に深く座り込む。


 専務室の椅子は座り心地がいい。


 いずれ大多が社長から退(しりぞ)いて顧問にでもなれば、今度は社長室の椅子に座ることが出来る。

< 63 / 171 >

この作品をシェア

pagetop