本当に愛おしい君の唇
 治登は出世を諦めているわけじゃない。
 

 むしろ積極的に上に上がりたいとすら考えていた。


 今のままだと、社長が持つ決定権が手に入らないからだ。


 古賀原は相変わらず閑職課長である。


 仕事らしい仕事は何一つとしてしない。


 治登は大園が言った通り、古賀原をどこか辺鄙な場所にある支所へと飛ばすつもりでいた。


 一度決めたら絶対にやり抜くのが、治登の長所だ。


 逆に言えば欠点でもある。


 融通(ゆうずう)が利かないという。


 治登は新年度の人事は一応、人事課の人間に任せるとして、古賀原をどう処分するか考え続けていた。


 社長である大多がどこまでするのか……?


 最終決定権は社長にあるのだから、治登は決まったことに関しては従わざるを得ない。
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