本当に愛おしい君の唇
 人事で古賀原が地方にでも飛ばされれば、また職場の環境がガラリと変わる。
 

 皆があの男の顔を見なくて済むからだ。


 汚い給料泥棒には一から出直してもらうつもりでいた。


 年中冷え込む北海道辺りで、せいぜい真面目にやれよと。


 社が刷新(さっしん)されないといけない。


 現段階で旧弊(きゅうへい)が残るとまずい。


 そのがん細胞のようなものを取り除くのが、人事課の人間たちの仕事だ。


 もちろん最終的には幹部会で決まるのだが……。


 そして治登もその会議には当然ながら出席させてもらうつもりでいて……。


 書類を片付けて、パソコンを開き、キーを叩いて新しいデータを作り始めた。


 これが世界展開する大手商社の専務の毎日の仕事なのだ。


 淡々と、愚直なまでに与えられた仕事をこなす。


 文句一つ言わずに……。
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