本当に愛おしい君の唇
 いくら気持ちは若くても、ブームの最前線にいる若者たちの動向は知らないからだ。


 テレビで流れている番組も、まじまじと見ることもない。


 家に帰ったときは、有希となるだけ顔を合わせないようにして、リビングをスゥーと通り過ぎる。


 家庭は崩壊してしまって、有希との結婚生活も満たされないまま、時が流れていた。


 直美を抱き続ける気持ちに変わりはない。


 ただ、どうしたらこれから生きていけるのだろうと不安に思っていて……。


 直美が受け入れてくれるのなら、自然と想いは固まる。


 取り留めのないことを考えながら、新宿の繁華街にある、行きつけのランチ店に入ると、


「いらっしゃいませー」


 というウエイトレスの声が聞こえてきた。


「おタバコ吸われますか?」


「ああ」

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