本当に愛おしい君の唇
 治登がテーブルに置かれた日替わりのランチに箸を付け始める。


 今日の昼は豚肉がメインで、料理の皿に鼻を近付けて、香りを嗅ぐと、いい匂いがしてきた。


 そのとき不意にメールが入ってくる。


 直美からだった。


 <今夜、会わない?会えそうだったら連絡して>とある。


 治登は食事を取る手を止め、一応形式的にメールを打ち返した。


 <午後八時に待ち合わせしよう。新宿駅東南口で>


 文面はそれだけだった。


 送信ボタンを押すと、治登は再び食事を取り始める。


 サラリーマンというのは実に疲れるのだ。


 治登もいくら取締役とはいえ、回される仕事はいくらでもあった。


 これが現実なのである。

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