本当に愛おしい君の唇
 丸々三日間徹夜で作業したりしていて、今じゃとても出来ないことまでしていたのだ。


 だが、今は違う。


 昔の元気はもうないのだし、社員も大幅に入れ替わって、創業時からいた人間たちは外へと流出(りゅうしゅつ)していった。


 未だに残っているのは社長の大多と、専務の治登、それに常務の樺島ぐらいなものだ。


 後は全て創業してから入ってきた人間たちばかりだった。


 治登は思っていた。


「後で多分樺島が専務室に来る」と。


 樺島は人事課の人間と親しくしていて、普通なら絶対見せない人事のデータなどを持ち、こっそりと治登に見せに来るのだった。


 こういったことには慣れてしまっている。


 樺島は人事に関しての機密情報を事前に治登に教えたりするのだ。


 誰がどこに配属され、どういった配置に付くのかを。


 そして案の定、午後の業務が始まる午後一時半に、専務室の扉がノックされた。
< 76 / 171 >

この作品をシェア

pagetop