本当に愛おしい君の唇
 そんな状態で家庭を正常に戻すことはまず不可能に近い。


 治登はそう思っていたので、有希が自分で好き勝手にやっていることを黙認していた。


 単に稼いだ給料の三分の二ほどを渡すことで、彼女は一応、家の掃除や洗濯などの家事は一通りしてくれるのだ。


 治登は有希のことを苦々しく思っていたのだが、仕方ない。


 もはや単なる一家政婦に過ぎないのだし、離婚に踏み切ることまで考えていた。


 直美も旦那の不倫には嫌気が差すらしい。


 子供たち二人は堪(たま)らないだろうなと思える。


 親同士がすれ違いの関係を続けていることに対し、血の繋がった子供の立場から見れば、奇異なものを感じると思われるからだ。


 それに治登はいずれ妹の令香の家から、養子をもらうことも視野に入れていた。


 確かに金兼原建設にも跡継ぎが必要だろう。


 実際、十歳の甥っ子は早期教育を受けていて、学校でも出来がいい方らしい。


 治登はその甥に目を掛けていて、子供に据えたら、ルーデルの将来を任せるつもりでい
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